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小作人の命(平尾)



 平尾の村で土地を借りていた農民たちがおった。地代として米を納めんとあかんかったんやが、米は毎年不作。納めるほどとれんかったんや。
 ある日のこと地主が農家へ取り立てにやってきた。自分たちが食べるヒエやアワさえとれんのに納めるなんてとてもできん。
「一俵でも少なくしてくだされ。」
農民は頭をさげて一生懸命に頼みこんだんじゃが、地主は意地悪でのう。前にもましてきびしい取り立てをしたんじゃと。せっぱつまった農民は自分の娘に悲しい思いをさせたり、年寄りを捨てたり、ついには食べ物がなくて死んでしまう人もいたそうや。
 ある夜のこと、農民たちはついにがまんができんようになった。大勢で地主の蔵を襲たんや。しかし役人が騒ぎに気づいて、農民をつかまえ殿さまのところへ連れていった。農民はおろおろするばかり。命ごいするもんまでおったんや。けど、助けてくれるわけはなし。みんな牢屋へ放り込まれた。
 数日後、農民たちは殿さまの前につき出された。これからどうなることやら。不安で不安でみんなおろおろ。泣きつかれ、ただうなだれるばかりの人もおったそうや。
 ところがや、殿さまは村人を死刑にしてしもうた。物わかりのよい殿さまならこんなことにはならなかったろうに……。悲しい話じゃ。
話 稲森豊松さん(明治三十五年生まれ)

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