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嫁とり岩(夏秋)



 昔、名張の町へ嫁入りするために、名張川沿いの薦生街道を通っていた一行がありましたのや。夏秋と下三谷の間の一軒家の川筋を通りかかったとき、どこからかものすごい地響きがしてきた。一行は立ち止まってな、おそるおそる震える体をおさえながら山の方を見たんや。すると、大きな岩が、ものすごい勢いで転がり落ちてくる。誰かが大声で叫んでみんなやっとこさで岩から身をかわしたんや。
「はあ、はあ、はあ、助かったわ。せやけど、どでがい岩やったなあ。あんなんにつぶされたらおだぶつだわ。」
「お嫁さん、嫁さんがおらへんよ。えらいこっちゃ。はよさがさにゃ。」
ホッとしたのも束の間、今度は嫁さんがおらんようになった。そのうち一人が
「ギャー、あ、あれ。」
またまたびっくりするほどの大きな声を上げた。腰をぬかしたその男の指のさす方を見ると、なんと落ちてきた岩の横に嫁さんが倒れておったそうじゃ。運悪く落ちてきた岩もろとも川に落ちてしもうてな、かわいそうに死んでしまったのや。
「おそろしい岩や。嫁さん、じょうぶつしてあの世に行っておくんなはれ。」
男たちは、嫁さんの横にすわってな、一晩中悲しんだそうや。
 その事件があってからはな、村人たちは大岩を「嫁とり岩」と呼ぶようになった。嫁入りのときにはこの街道を通らず、遠まわりして行ったんや。
 嫁とり岩は少し前まで川にあったんやが、ある石屋さんが金もうけのためにいくつかに割って持ち帰ってしもうた。
 ところがいく日かたってみょうなことに石屋の嫁さんがぽっくりと死んでしまったそうですわ。
 今、嫁とり岩は石屋さんが割ったので小さいけれど、その姿を川ぶちに残しておりますんやわ。
話 北森徳二さん(明治三十五年生まれ)
山崎節夫さん(大正十五年生まれ) 

●名張川 2008/4/26現在。携帯で撮影。どれが嫁とり岩か不明です。


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