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薦生街道の石地蔵(薦生・夏秋)



 夏秋から薦生へ行く昔の街道は、今の道の下にあったんや。そのころは、川べりの岩の上や岩の間を通ってましたんやろな。
 街道筋にあるいくつかの大きな岩に、地蔵様が彫られておりますんやわ。下三谷口の手前、刀で横一文字に切りつけたようになっている大きな「切りつけ岩」の「切りつけ地蔵」や、薦生の入り口にある「木戸岩」の地蔵など、いっぱいありますわ。街道は、これら地蔵様の前を通っていましたので、通りがかる人々は旅の安全を祈って行ったそうや。
 ところがや、新しい道が地蔵様の上につけられた。それからというものはのう、地蔵様の付近で人や馬や車が、川に落っこちるというそれはもう恐ろしい事故が次々と起こったんや。
「木戸岩と切りつけ岩を通る時には、地蔵様の頭を踏みつけるのやさかいな、注意せなバチがあたるぞ。」
 だれいうとなくこんな言い伝えがこの村に残っておりますんやわ。
 地蔵様はどれも室町時代に彫られたそうで、よく調べてみると木戸岩の地蔵様には、「応永十三年(一四〇六)」の年号がかすかに読みとれます。ずいぶん昔のものなんですなあ。大岩に仏像が彫ってあれば、藩や役人の命令があっても、その岩は供出しないですんだ、と言われていましてな。信仰と実益の両面をのぞかせる話ですわ。
話・山崎節夫さん(大正十五年生まれ)
広畑雄平さん(明治三十五年生まれ)

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