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伊賀の長者さま(鵜山)



 この村(鵜山)の福々にな「伊賀長者さま」と呼ばれておるたいそうお金持ちが住んでおった。長者さまは、高台に城屋敷をかまえ、屋敷内には、大きなコイを飼って毎日ぜいたくな暮らしをしておった。気に入らないことがあると「流しものにするぞ」と言うので、村人たちの恐れようは、そりゃあもう、はれものにでもさわるようじゃった。
 長者屋敷の入り口に馬に乗って通れるほどの大きな黒門があってな。開けしめするたびにきしむので、
「長者さまの黒門は“ギシッ”となきまする。金があるのでなきまする。」
皮肉っぽく村人は、うたっておったそうな。ところがそんなぜいたくがいつまでも続くわけがない。
「長者さまの黒門は“ギシッ”となきまする。金がないのでなきまする。」
に変わってしもうたんや。
 屋敷の近くに大きな蔵があって、村で収穫した米を入れてあった。蔵の跡を通っている坂道は今でも「お蔵坂」と呼ばれ、それに長者さまは「殿様」の名で通り「殿谷」や「殿城」の地名も残っておるんじゃ。昔は裕福な長者さまがおりなさった土地だったので「福々」という地名になったんや。この辺りの山には鵜が住みついたといわれてな。それからこの地方を「鵜山」というようになったそうじゃ。
話・豊永楠男さん(明治二十五年生まれ) 
福島てるゑさん(明治三十四年生まれ)

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