「オーイえ、えらいこっちゃ。へ、へびがふ、ふねになっているのやわあ。」
「なんやてエ、ヘビが舟だとオ、ほんまかいな。」
「ほんまやて、わしがほんさっきこの目で見てきたんやさかい。」
「そんじゃ見に行ってみよか。」
畑にいた二、三人の村人は、首をかしげながら出かけて行って見てびっくりしましたのなんの。本当だったんじゃ。このことは、村中だけとちごて、またたく間に伊賀じゅうに知れ渡ってしもうた。ぞろぞろと見に来る人の行列が何日も何日も続きましたんや。そのうちに藤堂藩のお奉行だった「石田清兵衛」の耳にはいってな。
「不吉なことや。もし蛇が人家を襲うようなことにでもなったら一大事。」
清兵衛は江戸幕府まで早馬を飛ばしたそうやわ。ほんで蛇はその後四、五日間“蛇舟”を作っていたんやけど何事もなかったようにふっとどこかへ姿を消したそうや。
話・矢川のお年寄り
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