back

こえんど坂の由来(長瀬)



 長瀬の木平屋敷に、「彦兵衛」という名の長者が豪勢に暮らしてたんや。屋敷の近くにそれは仲の良い夫婦が住んでおってな。嫁さんは村中の評判になるほどの美人。彦兵衛はたちまち好きになってしまったそうや。
 ある日のこと、夫の留守中に彦兵衛は嫁さんを自分の家に連れていってしもうた。悪いことをする人間は、どこまでも悪じゃ。夫が嫁さんを連れ戻しにやって来たら、逆に捕らえ、牢に閉じ込めてしまったんじゃ。
 ある日、夫はやっとのことで牢を破って外へ出、藩主に訴えた。間もなく役人がかけつけて来て、彦兵衛や仲間はその場で「ご用」となったそうや。
 彦兵衛らは、丸い藤のカゴに入れられ、屋敷の山向こうの坂道を登って名張へつれていかれたんやが、峠でかごの中から自分の屋敷をながめて、
「もうこの坂は二度とこえんど。」
涙を流しながら叫んだそうや。
話・木平あさへさん(明治二十九年生まれ)

 木平屋敷におった長者のところへある日のこと、六部さんがたずねて来ましてな。厳しい修行をする修験者じゃが、その夜は長者の家に泊まることになりましたんやわ。六部さんは修行の旅をするために、たくさんのお金を持っておった。ところがな、長者は、自分が村一番の大金持ちなのに、六部さんのお金に目がくらんでしもうて、その夜、六部さんのお金を盗んでしもうたんじゃ。
 犯人は長者とすぐわかり、六部さんはすぐ役人に訴えた。長者一家は盗みの罪で捕らえられてしもうて、山の向こうにある代官所まで連れて行かれることになったんや。その途中のことじゃった。木平屋敷を一目で見渡せる峠があるんやが、そこは長くけわしい道で、一家は住みなれた木平屋敷を振り返りながら目に涙を浮かべてな
「もう、この坂を二度と越えんど。」
 再び木平の地に戻れない自分の運命を哀れみ、嘆いたそうな。そのころからこの坂道は『こえんど坂』と呼ばれるようになって、峠と木平屋敷には長者一家の供養のために建てられた立派な塔が残っていますんやわ。
話・横矢千代さん(明治三十七年生まれ)

●長瀬の国津神社2008/3/21現在。携帯で撮影。


@こえんど坂の地図

top

back