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井戸ヶ坂の一騎打ち(上長瀬)



 上長瀬の東側の山奥に、四軒ほどの「大戸屋」という地名がありますんや。伊賀と伊勢を結ぶ古い道がありまして、途中の坂道を「井戸ヶ坂」と呼んでいますんやわ。
 昔な、赤いよろいを身につけた一人の武者が、息を切らせてこの地に逃げてきましたんや。そのうち、黒いよろいの強そうな武者が馬にまたがってやって来た。赤いよろいの武者に井戸ヶ坂で追い着き、
「もう逃さぬぞ、観念せよ。」
馬から降りて、腰の大刀をふり抜いたそうや。
 赤いよろいの武者は、長い山道を走り逃げて来たので、ふらふら。
 けれど武者は武者らしく勇敢に刀を抜いて立ち向かいましてんやわ。二人は、互いに斬りおうてな。そのうちに赤いよろいの武者は斬られ、倒れてしもうた。黒いよろいの武者は倒れた武者の体に馬乗りになって首を討ち取ってな、再び馬にまたがって、ゆうゆうともと来た山道を引き返して行ったんや。残された胴は、村人の手で手厚くほうむられたそうな。
話・福山渉さん(大正十五年生まれ)

 井戸ヶ坂には、故・福山茂生さんがこの話を子孫に伝えるため、昭和五年「井戸ヶ坂」の碑を建てました。井戸ヶ坂の名は碑の下に、村でただ一つの井戸が古くからあったのでつけられたそうです。
 また、大戸屋という地区は、上長瀬の東南の方向にあり、山あいの小さな集落です。長瀬の発祥の地とも伝えられ、古代は焼き畑農業で人々が生活をしていたといわれています。山林などを焼き払って農作物をつくる原始的な方法で、地形からみても仕方がなかったのでしょう。


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