「おや、これはいったい…。いつの間にどうやって帰ったんかいのう。」
不思議に思いながら、立とうとしたが、どうも重とうて立てへん。背中に何やら乗っているらしいのや。
「これまた、どうしたことや。行者さんが乗ってらっしゃるではないか。」
与権兵衛はんは、またびっくり。ありがたく思って、この場所にお堂を建て、役の行者を安置しましたんやわ。
これが上長瀬の行者堂で、石段を百十五段も登った所にありましたんや。与権兵衛はんが背負っていた行者はんは、行者堂が火事の時に焼けてしまいましたが、焼け残りは地袋にしまってあります。
与権兵衛はんの家は行者堂の前に建っていたそうで、行者堂の境内に墓石が残っていますが、これは与権兵衛はんの墓と言われておりますんや。
この話は与権兵衛はんが知らない間に家へ戻っていたということですんやが、もっと不思議なことがありましてな。亡くなってからも、与権兵衛はんがお参りをしとった大峰山で、彼の姿を見た人がいたそうです。信仰心からの“伝説”でしょうがね。
話・岩本数生さん(明治三十八年生まれ)
|