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おかねとりんぞう(新田)



 昔、新田の田舎に「おかね」という美しい娘がおったんや。おかねの家の近くには「りんぞう」という若者が住んでおった。二人とも両親を助け、百姓の仕事をよく手伝い、村でも評判になるほどの孝行者やった。野良仕事に行くたびに道ばたですれ違うことがよくあったんや。そんなとき、どちらからともなく声をかけ合うようになってな。
「おかねさん、今日も野良仕事かね、精が出ますな。」
「ええ、りんぞうさんもよくご精が出ますこと。」
ひと言ふた言の話をするだけでお互いの畑に行き、暗くなるまで働いとった。そのうちに、「おかね」と「りんぞう」は、どちらからともなく相手を好きになって夫婦の約束をしてな、ある日、りんぞうが両親に思い切って打ち明けた。
「おとう、おかあ、おれはおかねを嫁にもらうつもりなんやが、ええかのう。」
すると、両親は、
「何をぬかすんや。この親不孝者、絶対に許さんぞ。」
ものすごいけんまくでおこって、反対した。りんぞうは合点がいかない様子でマユをひそめて何度も何度も、理由をしつこいぐらい尋ねたんやけど両親はただ反対の一点張り。ほかに何も言わんかった。りんぞうからこのことを聞いたおかねは、
「やっぱり…。私の両親も同じです。昔から、うちと仲が悪いんです。」
とても悲しそうにするんや。りんぞうはどうすれば親に許してもらえるものか思案の末、思いつめて駆け落ちを考えた。初めは迷っていたおかねもついにりんぞうに従うことにして、翌日、二人はそっとお互いの家を出た。あたりはまだまっ暗。人目をしのんで待ち合わせ、伊勢へと向かったんや。
 けどとうとう伊勢で見つかってしもうた。そして新田によび戻され、二度と会ってはならぬと、両方の親や親類の者たちからきつく言われたそうな。しかし、そんなことで二人は別れられへん。離れているとよけいに思いはつのるばかり。しまいに、どうせ生きていても実らぬならば、と思いつめてしもた。
 ある夜、川原坂を歩いてげんろく池のほとりまで来て、水際に立ち止まった。何にも言わず、手をとり合って、ひもで体をしっかりしばったんやわ。ひとつになった二人は、いままでの恋のようにひっそりと池の中に消えていってしもうた。
 近くに二人をまつったお地蔵さんがあるそうやわ。きっと、おかねとりんぞうは、天国でしあわせに、暮らしているんやろうなあ。
話・中内節さん(大正六年生まれ)

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