「小波田岩崎よ、こわいか。こわければ刀を捨て、とっとと立ち去れ。」
「何を!、この岩崎、そんなことでは、こわがらんわい。みそこなうな。」
大男は今にも飛びかからんばかりの勢いであったのやが、気の強い岩崎の武人は、腰の大刀を抜いてけさ切りに一刀をあびせたんじゃ。
ところがや、大男の姿が見えなくなってな。そこには地蔵様がけさ切りにされていたんやわ。武人は地蔵様の首を切ってしまったのや。しかし、あたりを見わたしても首がどこにもなかったそうじゃ。あまりにも力強く切りつけたんでな。地蔵様の首は、伊勢神戸(現在の鈴鹿市神戸)まで飛んでしもうた。
首を切られた地蔵様は、今も伊賀神戸の天道山のふもとの道筋に「岩崎石像」と表札が付けられて祭られ、見事なけさ切りになってますわ。
上小波田ではこわいもの知らず。それも力持ちの武人が切ったから、首は遠くへ飛んだといわれたのでしょう。首は鈴鹿の寺にまつってあるそうですわ。もっとも、胴と合うかどうか、はっきりはしませんが…。
話・岩崎菊次郎さん(明治二十七年生まれ)
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