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刀になった花ショウブ(丈六)



 昔々、織田家が力を強めてなあ。天下をとろうとしていたある日のことじゃった。織田信長の子供の信雄が率いる織田軍は花ショウブがきれいに咲いてる城に入ってきたんやと。その夜のことじゃ。織田軍の見張りの一人が突然、
「た、たいへんだあ、敵が攻めてきたぞっ。」
大きな声で叫んだんや。みんながかけ寄ってみるとな、なんとまあ城のまわりには、敵の刀が月に照らされピカピカと光っておるのじゃった。
みんなはどうしたらええのか、わからずにおろおろしとったんじゃ。そうしてるうちに、
「たいまつを作って敵に投げろう。」
上の人から命令が出たのじゃ。こうなったらもう一か八か。みんなは一せいに投げ始めたんや。城のまわりは一瞬のうちに火の海になってしもうた。まわりの物は全部燃えてしもうてな、兵士たちは敵を全滅させたと思ってホッと胸をなでおろしたんじゃ。
 ところが驚いたのは村人たちじゃった。城に近づき夜明けを待ってよおく見てみると、人のいた気配はなく、ただ焼け野になっているだけ。不思議に思っているとな、村人の一人が、
「あれえまあ、花ショウブが全滅だあ。みんなきれいな花なのに。」
「ほんまに、あの花は夜露にぬれたら月の光に光ってきれいやったのになあ。」
 この話を聞いていた織田信雄は、花ショウブを敵の刀と間違えたことに気付いて顔を赤くしたそうや。
話・青山 守さん(大正四年生まれ)

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