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浮き石(旧市内)



 もう昔のことでございます。世にも不思議な石がある山の、ふもとの一軒家に貧しい百姓の老夫婦が住んでおりました。
「おじいさんや、今年も稲刈りの時期がやってきましたなあ。」
「そうやのう。ちょっと田んぼでも見てこうかのう。」
 おじいさんが田んぼを見に行くとどうでしょう。この間までスクスクと育っていた稲がみんな枯れているではありませんか。
「もうすぐ、年貢を納める時期やというのに……どうしたもんかのう。」
 途方に暮れた二人は、あれやこれやと考えました。ふとおばあさんが、
「そうじゃ、あの山の上に願い事のかなう石があるそうな。頼んでみよう。」
 二人は山に登って、石の前にひざまづき、両手を合わせて、
「お石さま、お石さま、どうか米がとれるように……お願いいたしますだ。」
 一生懸命願い事を唱えはじめました。しばらくしておばあさんが頭を上げると、石がふんわり、ふんわり。宙に浮く石に腰を抜かすほどびっくりして、二人とも体の震えがとまらず、あわてふためいて家へ帰りました。
 翌朝、おじいさんが田んぼへ行くと、枯れていたはずの稲が実をつけ、一面黄金色になっていたそうです。不思議な石のおかげということになり、その石は「浮き石」と呼ばれるようになりました。
話 東山よしゑさん(明治三十一年生まれ)

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