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あかご池(丸之内)



 それは悲しい悲しい話やったわ。今の名張中学校から、向かいの郵便局にかけてあった細長い「あかご池」のことですんや。ただ竹ヤブだけのさみしい池のほとりに、生まれて間もない赤ん坊を抱いた母親と父親の姿がときどき現れましてな。親はいいようのないほど悲しい顔つきで赤ん坊をじっと見て、
「この親を許しておくれや。お前は可哀そうやが……。」
涙を流して赤ん坊を池に放り込んだんやった。昔の人らの生活は今ほど豊かではなかったさかい、一つの家で三人か四人かの家族が生きていくのに精一杯でしてんて。子どもは一人が二人がせいぜいで、後から生まれてきた子どもは、やむをえず捨ててしまわなあかんでな。どれほどの夫婦がつらい思いをしたことか。
 今は、ここらへんも学校やら民家やらがあって、昔の悲しい姿を思わせるような風景はまったく残っていませんけどな。
話 東山よしゑさん(明治三十一年生まれ)

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