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蛇舟(矢川)



 今から三百六十年ほど前(元和年間)、村人が矢川の春日神社(矢川神社)へお参りにいきましたんや。そしたら境内で長さ十二メートル、幅一・五メートル、高さ六十センチの舟を見つけてな。近づいてよう見たら驚いたことに、長さ一メートル余りのヘビが何千匹と集まって舟のかたちをつくってたんやわ。
「ヒャー、ヘビが舟を作ったわい。」
村人はびっくりして、もと来た道を一目散。野良仕事をしている人に
「オーイえ、えらいこっちゃ。へ、へびがふ、ふねになっているのやわあ。」
「なんやてエ、ヘビが舟だとオ、ほんまかいな。」
「ほんまやて、わしがほんさっきこの目で見てきたんやさかい。」
「そんじゃ見に行ってみよか。」
畑にいた二、三人の村人は、首をかしげながら出かけて行って見てびっくりしましたのなんの。本当だったんじゃ。このことは、村中だけとちごて、またたく間に伊賀じゅうに知れ渡ってしもうた。ぞろぞろと見に来る人の行列が何日も何日も続きましたんや。そのうちに藤堂藩のお奉行だった「石田清兵衛」の耳にはいってな。
「不吉なことや。もし蛇が人家を襲うようなことにでもなったら一大事。」
清兵衛は江戸幕府まで早馬を飛ばしたそうやわ。ほんで蛇はその後四、五日間“蛇舟”を作っていたんやけど何事もなかったようにふっとどこかへ姿を消したそうや。
話・矢川のお年寄り


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