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井戸の中の七地蔵(黒田)



 黒田は昔から農業の盛んな所じゃった。稲が実ったある年の秋、あと数日もすれば、収穫ができるという日に台風が来てのお。そりゃあひどいもんで稲を全部倒し穂を飛ばしてしもうたんじゃ。年貢を出さにゃあならん農民たちにとって大変な事件じゃった。農民たちは、あれやこれやと話をしたんじゃが何一ついい案は出んかった。
 話し合いのあとで庄屋は、仏様にその話をして床に入り、眠りについたころ誰かが話しかけている声に気がついた。目をあけて見ると、七人のお地蔵様が枕元に並んでおったんじゃ。どれも悲しそうな顔をして、ずぶぬれだったそうな。
「私らは、お前の家の井戸の中にほおりこまれている地蔵じゃ。どうにも冷たくてたまらぬ、明るい所が好きじゃ。どこでもええ、表に出してはもらえぬか。」
地蔵は涙ながらに訴えたそうじゃ。
 朝になって庄屋は村人たちを呼びよせ、さっそく井戸のそうじをしてみると、夕べの、七つの地蔵様が井戸の水の中で横たわっとったんや。村人たちは地蔵様をきれいにして、村のまん中にお堂を建ててまつった。
 と、その晩のことじゃ。庄屋さんの枕元にまた、地蔵様が現れてな、
「ありがとう。私らは、とても嬉しい。お前の願いごとを一つかなえてやろう。」
そりゃもう、うれしそうにささやいた。
「そんなら、私どもの村は米がとれんで困っております。どうかいつものようにとれるようにして下さらんか。」
庄屋は悩みを打ち明け、お願いしたんや。
 あくる朝のことじゃった。お堂にお参りした庄屋は驚いた。数えきれんほどの米俵がお堂の前に置かれとった。お地蔵さまのおかげじゃのう。その日、村では、お地蔵さまのために飲めや歌えの大さわぎ。それから村人達は、毎年その日がくると村をあげてお祭りをひらいたそうじゃ。
話・黒田のお年寄り

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