村の国津神社には御神体をまつっているほこらがあるものじゃから焼かれてしもては申し訳ない。村人はほこらを安全な所へ移す相談の結果、曽爾の伊賀見に場所を決め、村人の代表二人が移すことになった。御神体の入ったほこらを棒にしっかりくくりつけ、はずれないようにして出発したのじゃ。
二人は村を出て途中何度も休みながら重いほこらをしょって山道を曽爾へ曽爾へと向かった。
しかし、だんだん道がけわしくなって、足もとはふらふら。とうとうへたばってしもうて、池のほとりに座りこんでしもうた。あたりはもう暮れどきじゃ。
しまいには重いほこらを池のほとりに置き、御神体だけを取り出してかつぎ、歩き始めたんや。中山峠を越え、曽爾村の山道を下って目的地へようやくたどりつき、運んできた御神体は伊賀見にひそかにまつったそうや。
それから、このほこらを置いて行った池は「からほこの池」と呼ばれ、お参りする人もたくさんおったんやわ。
話・中子とらおさん(大正十五年生まれ)
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