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岩に下りた牛頭天王(長瀬)



 今から三百年ほど昔のことや。長瀬の木平の今矢家の人たちが寝とるとな。どこからやって来たんか知らんけど、枕元に一人の美しい女の人が現れたんや。
「おどろかせてすみません。私は牛頭天王さまの使いの者でございます。この村の悪病、悪事、災難をなくすために、明日の明け方、牛頭天王さまが村の東にある山の岩に降りたつことになりました。」
不思議なことを告げて、姿を消してしまった。
 今矢家の人はその晩、目がさえてしもて、明け方まで眠れへんかったそうや。そして、半分疑いながら山に登って行くと、なんとお告げの通り岩の上に般若の顔をした牛頭天王が立っていた。今矢家の者が思わずひざまずき、両手を合わせると牛頭天王の声がきこえてきたんじゃ。
「わしは、牛頭天王である。村中の悪病、悪事、災難を払うためにこの地におりたのだ。村人がこのわしを信じて日頃の仕事に精を出すのじゃ、よいな。」
「へへー。ありがたいお言葉でごぜーます。」
地面にピタッとひれ伏して、しばらくして顔をあげると、牛頭天王の姿はもうどこにもなかったそうじゃ。
 今矢家の人は急いで山を下りてな。村の火の見やぐらに上って半鐘をがんがん打ち鳴らした。そやから、村の衆は火事でもおきたんかと驚いて家からとび出した。
「オーイ、村の衆よ、聞いてくれー。この村に牛頭天王さまが降りなさったのやー。」
今矢家の人は大声で言いましてな。はじめは村の衆も信じられへんというてましたんやが、そのうち、出来事を全部話したら本当だとわかってくれたそうや。そしてその岩の上にほこらを建てたそうな。
 ほこらは山の神をまつっている山の中腹の「温家岩」(別名「天のぼうそ岩」)と呼ばれる岩でな、牛頭天王を、神体にした津島神社が祭られました。毎年、十一月二十四日に大祭をしてたんですが、五十一年ごろからしなくなってしまったんですわ。
話・今矢善一さん(明治四十一年生まれ)

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