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六兵衛岩(新田)



 昔、新田に高尾から水路がひかれた。水の少ないこの地域にとっちゃあ、水路は重要なもんじゃった。そこで村人たちは寄り合いを開いてのう、水路の見回りの当番を決めたんじゃ。
 村に六兵衛さんという人がおってな。ある日六兵衛さんは、水路の見回りの当番にあたっておったんで、三里十八町(約十五キロ)の長い水路を見回っておった。途中、木陰に腰をおろして竹筒の水を飲んで休んでいると、突然山の上から大きな岩が地響きをたてて六兵衛さんめがけて落ちてきた。
「ひえー、助けてくれーっ。」
もうびっくりぎょうてん。大きな声で叫びながら逃げたんじゃが、岩は勢いがある。あわれにも六兵衛さんは岩の下敷きになってしもうた。
「助けてくれー。助けてくれーっ。」
岩の下から何度も叫びつづけたが助けに来てくれる人もおらず、とうとうその大きな岩の下で死んでしもうたんじゃ。
 その後、村の人たちは六兵衛さんの遺体を取りだそうと苦労したがどうしても岩をどけることができなんだそうじゃ。しかたなくそのまま放っておくことにしたそうで、それからはこの大きな岩を村人たちの間では『六兵衛岩』と呼ぶようになった。六兵衛さんの遺骨が今も埋もれていると伝えられておるんじゃ。
話・中内節さん(大正六年生まれ)

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