back

ばけの火(新田)



 あんまりエエ話ではないんじゃがのう。まあ、これも昔のこと、話してみるか。
 江戸時代の終わりから明治維新にかけて、世の中はたいへん混乱しておった。そんな時やから、仕事を失う者もいて、みんな生活が苦しかった。新田にも墓を掘って盗みを働く「盗み掘り」をする者がたくさんおった。夜、墓へ行って埋葬品を盗んでは、それをお金にかえて生活をする悪い連中のことじゃが、そいつらは、人に見つからんように夜に出かけなければならんので、手に手にランプやたいまつなどを持って、墓へ盗みに行ったそうじゃ。
 ある夜のこと、墓近くに住んでいたおじいさんが外に出てみると、お墓の方で火がチラチラと動き回っているのが見えた。おじいさんは、びっくりぎょうてん、腰を抜かさんばかりに、やっとの思いで家にたどりついた。家の人たちに墓の様子を話して聞かせ、次の日みんなと墓へ行ってみたそうや。
 するとどうじゃろう。墓は一面に荒されておったそうじゃ。それを見た村人たちは、あちこちの墓を荒して回っている「盗み掘り」の仕わざだとわかったそうな。世の中には何とバチあたりなことをする者がいるものかのう。
 それ以後、盗み掘りの持つたいまつなどの火を「ばけの火」と呼ぶようになったそうじゃ。火の玉みたいに見えたから、こんな名前がついたんじゃろうな。
話・中内節さん(大正六年生まれ)

top

back