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檀の弁天さん(檀)



 役小角が赤目滝の山で修行しておったときのことじゃ。赤目一帯は日でり続きで農作物がとれず、村人たちは大そう困っておったそうな。役小角は何とか助けてやりたいと思ってな、山を下り高善山のふもとにけがれのない清浄の地を捜して草庵を建て、七重の、ひときわ高い『檀』を造ってお祈りをしてたそうな。
 すると高善山の東のふもとを流れている小川の岩の上に「明星の王子」が降り立った。
「役小角よ。お前の修法は立派である。村民の苦しみを救おうとするその心意気に秘法をさずけようぞ。」
役小角は不思議な力を与えられてな、五十七日間の修行をつんだあと、また不思議なことがおこったそうな。紫の雲に乗った弁天さんが役小角の前に降りて来て「密呪秘印」を伝え、また雲に乗って姿を消した。
 そんなことがあって次の年は農作物にとってちょうど良い時に雨が降り、かつてないほどの大豊作になった。村人たちはたいへんな喜びようで、役小角に感謝するとともに弁天さまのおかげでやと考えた。そこで、役小角が祈っていた檀の東方の丘の印之木山に弁財天女をおまつりすることになったんやわ。毎年二月六日の祭りには、やく払いの人々や店も出て大変なにぎわいじゃったがいつしか等身大の「弁天さん」は行方知れずになってしもうた。
 役小角が七重の檀を設けた土地は「檀」、星の天子が川に降りたことからその辺りを「星川」というようになったんやと。
話・桐本一男さん(大正一年生まれ)

▽檀=土を盛り上げて設けた、祭りの場所。
▽役小角(えんのおづぬ)=役行者・小角。飛鳥時代に起きたといわれる修験道(しゅげんどう)の開祖。
▽密呪秘印(みつじゅひいん)=密教に伝わる秘密の印
▽修法=密教(宗教の二大区分の一つ)の用語。檀を設け、国家、個人のために祈ること。


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