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川太郎の話(夏見)



 昔、夏見の高島にお殿様が住んでおりましたそうな。一人の息子がいましてな。なによりも川が好きな子で、いつも決まって大きな岩の上でシロハエを釣っておりましたんじゃわ。
 ところがお殿様は息子のことが心配で、
「川は危ない。けっして行くでない。」
いつもきびしく教えていたんや。けれどもやっぱり子供やでそんなことは聞かんかった。
 ある日のこと、いつものように大きな岩の上で釣りをしていたんや。すると川上の方からそれはもうたいへんきれいな錦の帯が流れてきた。川にすむ「川太郎」が化けておったのやけど、息子はそんなことを知るはずもない。さっそく竹ざおの先でひっかけて取ろうとしたんや。よほど欲しかったのか竹ざおは折れてしもたのにあきらめんかった。今度は手でつかもうと、体を乗り出したとたん、錦の帯に巻きつかれ、川の底へ引きずりこまれ、もうそのまま浮かび上がることはなかったんや。
 お殿様は泣きじゃくったそうや。岩のせいでわが子が死んだ、と思い込み、すぐに岩を刀で真っ二つ。するとな、岩の間から真っ赤な血が流れて出た。血は三日三晩流れ続いたそうや。
 お殿様は岩に子供の姿をした地蔵と五輪塔を刻んで供養。岩は今も残っていて、上にあがったら川に落ちるものとも伝わっておりますのや。
話・坂本嘉蔵さん(明治三十八年生まれ)

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