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ひなご屋敷(夏見)



 今ではもう昔のことになってしもうたが「ひなご」というお殿さんがおったんですわ。戦に敗れて数人の家来ともどもこの夏見の地へ落ちのびてきたんですなあ。夏見の山へ入り、小高い丘の中ほどまでやってきたとき、
「おお、なんとながめのよいところじゃ。それに四方が山に囲まれとる。城を築けば、まず見つかるようなことはなかろう。」
お殿さんはすっかりこの場所が気に入り農民を集めて城を作ることにし、さっそく城つくりが始まったんや。
 クワの音がくる日もくる日も響いてやっと完成。殿さんは、城をながめ、
「おお、みごとなもんじゃ。今日からここで、ひなご一族の再出発じゃ。みなの者、よいか。」
それは大変な喜びようじゃったそうな。
 ひなご一族の努力と、農民たちの力で完成した城は、後もずっとほろびることはなく残っておったそうじゃ。
 ひなご屋敷が建った後、この周囲に「城の内」や「古城(ふろんじょ)」て呼ばれとる「深山の城」が出来たのじゃ。城跡は、今の「生住家」の西の方、畑になっとるが、一帯を見渡すと、昔のこの辺の様子が目に浮かんでくるんですわ。
話・中野三重生さん(明治四十四年生まれ)
生住はるゑさん(大正二年生まれ)  

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